恋かもしれない
松崎さんは私の言葉を待っているのだろうか。

こうして訪ねて来たときには、お部屋に招いて冷たい麦茶を飲んでもらった方がいいのだろうか。

こんなとき、世の女子たちはどうしているんだろうか。

対男性スキルが足りな過ぎて、どう対応したらいいのか全然わからない。

「あ、あの……」

ドキドキするのを一生懸命無視して、そっと目を上げると柔らかく微笑む松崎さんと目が合った。

それがとても優しい目で、あまりにもじーっと見つめてくるから目を逸らしたいけれど、緊張して石のように固まった体はスムーズに動かない。

そのまま見つめ合っていると、松崎さんは少し眉をしかめた。

「今日は、このスタイルで喫茶店に出掛けたんですか」

「はい、そう、です」

「良くないな」

ぼそっと呟くように言った声は、なんだかさっきよりも低く聞こえる。

それに唇もぎゅっと結んでいて、なんだか不機嫌そうな感じだ。

会った回数は少ないけれど、こんな表情を見るのは初めてで戸惑ってしまう。

どうして、怒っているの? 

良くないというのは、この服が私に似合ってないということなの? 

店員さんには盛大に褒められたのだけれど……。

「あ、似合いません、よね」

「ああ違います。良くないとは、そういう意味ではなくて。ああ参ったな、すみません。俺の個人的な気持ちをつい言ってしまいました」

「個人的な?」

「それはですね……いやダメだ、今は、上手く説明できないことです。どうか気にしないでください」

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