恋かもしれない
松崎さんは日焼けの状態を見ているのだろうが、これは世間一般常識で言う〝抱き締められている〟状態に近いではないか。

少しでも動こうとすれば、背にまわされている腕がガシッと押さえてくる。

どうしてこんな体勢になっているのか。

頭の中を疑問符だらけにしていると、頭の上で「ヤーソクナデイ」と呟くような声が聞こえて、髪に何かが触れたような感覚がした。

今のは、何?

「冷やしたなら少しはいいですが、薬を塗った方がいいですよ。持ってますか?」

そう言うなり、松崎さんは離れた。ようやく体が軽くなったので、気を落ち着けてから日焼け用の薬がないことを伝えると、松崎さんは「それならよかった」とポケットの中から小さな紙袋を出した。

「これは綾瀬さんのために持って来たんで、受け取ってください」

「はい、ありがとう、ございます」

受け取った白い紙袋には栄養ドリンクの広告が入っており、『○×薬局』と書かれている。中を見ると、五センチくらいの小さな軟膏が入っていた。

日焼けの薬だ。これを、わざわざ買ってきてくれたのだ。

見上げれば松崎さんはちょっぴり頬を赤くしていた。
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