ユルトと精霊の湖
そして、根負けしたように重い腰を上げると、小さく湖精に手を振った。
「じゃあ、また」
「……さよなら……ユルト」
見送る少女の姿をした湖精は、ユルトの姿が森の中に消えてしまうまで、名残惜しそうに佇んでいたが、繁みから王が歩み出ると、さっと身を翻してひざまずいた。
「……我が王よ……このようなところにお越しとは」
「よい」
一言で湖の精の言葉を遮ると、王は厳しい目を湖精に向けた。
「しかし、湖精よ…………その姿、一体どうしたことだ?」
王の言葉の意味に気づいた花精や、さっきは王を畏れて近寄らなかった小さな者達が、慌てたように王の前に飛び出してくる。
『ゆるしてあげて』
『おねがい』
小さな精霊達が許しを請うて群れ集う中、歩み寄った王は、湖精から数歩離れた所で足を止めた。
目の前に膝をついているのは、ほっそりした水に宿る精霊らしい姿。
しかし、その血肉を持った体は重く、水に溶けきることはできないだろう。
身にまとう色も、まるで土の色。
水に関わる精霊の、本来の色ではない。
「……まるで、人の子のようではないか」
鈍い色をした髪のひと房をつまみ上げ、王は眉をひそめて言う。
「そなた…………人の皮をかぶっておるな?」