ユルトと精霊の湖
精霊は通常、人の目には見えない存在。
よほど力のある存在……例えば、王のような存在であれば、自らが望む姿を相手に見せることなど容易いが……歴史の浅い、小さな湖の守護者である、この湖精程度にできる芸当ではない。
どこかで得た人の皮をかぶっているに違いないことは、王を前にしてもなお、元の姿に戻らないことからも明らかだった。
「………………掟を破り、人の子と交わったのは、わたくし」
ひざまずき、恭順の姿勢を取りながらも、湖精は静かな目で、群れている水辺の者達を制した。
「いかような罰も、受けるつもりでおります」
揺らぐことのない真摯な目で王を見上げ、湖精は頭を垂れた。
本当に、覚悟はできているのだろう。
小さく澄み切った湖面は清らか。
今は風に波立つこともなく、翠色の鏡のように澄み渡っている。
人の姿をしてはいても、湖精の目は、湖そのものの澄んだ色をしている。
王は周囲の木々をぐるりと見渡し、そこに宿る精霊達を見た。
目の前の花精も、通りかかった風精も、この森に息づく者は全て、彼女を好いているようだ。
そして、それこそが、精霊の存在意義。