ユルトと精霊の湖

精霊はみな、純な存在ではあるが、水に関わる精霊は特に、清らかなことで知られている。

浄化の力を持つ彼女達は、宿る水に澱みが生じれば、その力をもって水を浄化する、世界の礎。

どれほど強い生き物であれ、水を得ずに生きられる者はいないのだから。

彼女達、水の精霊の役目は、宿る水から汚れを取り除き、周囲を潤し、そこに住む生き物達を育むこと。

それ以上でも、それ以下でもなく、それだけが全て、と言ってもいい。

人の子の皮を被り、人の子と必要以上に交わったことは、確かに、精霊として、褒められたことはない。

しかし、この森の様子を見れば、湖精は水の精霊として、きちんと役目を果たしていたことがわかる。

どうするべきか、と足先で、若々しい草の葉の感触を楽しんでいると、心配そうな花精にためらいがちに顔を覗きこまれ、王は小さな笑みをもらした。

「だが、まあ……そう心配せずともよい」

ふっと息を吹きかけると、小さなピンク色の花びらのようにくるりと宙返りした花精は、嬉しそうにはしゃぎながら、慌てて体制を立て直そうと羽ばたいた。


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