ユルトと精霊の湖
・迷い子
この森に生まれ出でてから、どれくらいの時がたった頃だろう。
湖をぐるりと取り囲む森の端の方に、人の子の気配を感じるようになった。
少し離れた海沿いや平地などに、人の子が住み着いたという話は物知りな風精から聞いてはいたけれど。
湖精の住む、この小さな湖は平地からいくつもの山を越えないとたどり着くことができない。
不思議に思った湖精が思ったままを伝えてみると、風精はこともなげに言った。
「今時、人間なんて、どこにでもいるさあね」
「そうそう。もっと平らな所では“街”というものをこさえて蟻みたいにひしめきあって暮らしているよ」
小さな蟻ならばいいけれど、人間というのはもっと大きな生き物だったはず。
それがひしめきあうほど、たくさん集まって暮らしている、というのは、なんとも息苦しそうだ。
もしかしたら、その“街”に住んでいる人間達は、息がしづらくなって、この森の近くにやって来たのかもしれない。
それならば、私が守っていこう、そう、湖精は思った。
この森が作る空気は、あの神聖な王の森ほどではないが、それなりに清浄だ。
息ができずに弱った人間達を、少しずつ癒すことだろう。