ユルトと精霊の湖
驚き慌てる、川沿いの木々に急かされ、その小さな人の子の顔を水から上げてやり、心臓の音を確認する。
報せを受けた時には、死体が流れてきたのかと思ったけれど、どうやらこれは違うようだ。
固く閉じられた瞼は、貼りつけたようにぴったりと閉じていて、体を丸めている。
ふっくらとした腹から伸びる、白く半透明な管。
血の匂いは、水に溶けてほとんど落ちてはいるが、湖精には、それが全身についていたものだということがわかった。
つまり、これは生まれたての人間の赤子で、まだ生きている。
なぜ捨てられたのかはわからないが、このまま捨て置けば、明日の朝日を見ることはできないのは明らか。
「連れて帰りましょう」
そう言うと、水辺に棲む者達は驚きの声を上げたが、湖精が動物達を呼び寄せるのを止めることはなかった。
「だって、生きているのだもの」
水を与え、森を育む湖精にとって、命とは、育むもの。
人間を良く思わない動物も中にはいたが、この赤子の命を摘もうとする者は誰もいなかった。
命を育み育てることの尊さ、大変さを知っている彼らは、例えどんな命であれ、消えゆくのを放ってはおけない。