ユルトと精霊の湖
これまで感じたことのないモヤモヤした気持ちを抱えながら湖へ戻ると、赤子を預けた動物達が困ったようにささやきあっていた。
騒ぎに気づいたらしい近くの花精や木精も飛んできた、チカチカとまたたいている。
「どうかしたの?」
岸に近寄って訊ねると、先ほど乳を与えようとしてくれた女鹿が、困ったように赤子を見下ろしていた。
「この子、全然動かないのねん」
ふわふわと綿毛のように漂いながら木精が言うと、ピンク色の花精もせわしなく羽ばたきながら湖精の方へやってきた。
「さっきから、この女鹿が抱いているのだけれど、この人の子、お乳を飲まないの」
「人間の赤子とは、乳を飲まないの?」
「飲むはずだって、風精は言っていたのねん」
「死んじゃったんじゃないかしら」
「まさか……ついさっきまで、生きていたのに」
慌てて自ら乗り出し、確認するが、赤子の心臓は確かに動いている。
動物達のおかげで、見つけた時よりもあたたかくなった体は柔らかく、死んでいるとは到底思えない。