ユルトと精霊の湖
『王が目覚められた』
『王が』
声ならぬ声でさんざめいた周囲の巨木達が、王のために枝を広げ始める。
昼なお薄暗い森に、さながらスポットライトのように落ちた一筋の光は、彼らの王の姿を更に美しく浮かび上がらせた。
やわらかそうな肌はに沿う長い髪は、黒と見まがう程に濃い緑。
陽の光に眇めた瞳も似た色だが、こちらは少し明るく、宝石のようにキラキラと輝いている。
「ああ、良い具合だ」
重々しい口調でつぶやいたのは、高く美しい声。
声なき声で意思疎通をする彼らの王は、褒美のために、この声を聞かせたのだろう。
これを聞き、王のために動いた巨木達は、嬉し気に葉を揺らす。
その様を見た王は、いつものように満足げに微笑んで、おや?というように首をかしげた。
「これは……この森の外……遠くの方から聞こえる音……これは……?」
訊ねた王に進み出たのは、小さな金色の光。
蛍のように明滅する光が、王の足元近く、苔むす地面にひれ伏すと、それを見やった王は不思議そうに問いかけた。