ユルトと精霊の湖
「……うた?」
人の耳には聞こえない、彼らだけの言語で話しているこの森の中で、聞こえるのは、透き通る王の声だけ。
王の元に集う彼らは、それだけで満足、という風情だが、王自身は、どうにも外からの物音が気になるらしい。
それは何か、と問いかけたが、王の森からでることのできない彼らは口々にささやけども、王の求める答えを持たない。
少し考え込むように顎に手をやると、王は、歌の在り処を探すように、木漏れ日の差し込む緑の天井を見上げた。
高い高い木々の葉の上で、先ほど歌を運んできた風の眷属達が戯れている気配がある。
見つけた、と目を輝かせた王のため、今度は巨木を這う蔦状の植物が、我先にと天井へと続く螺旋状の道を作り出はじめた。
この精霊王の力にあふれた、王の森だから成しえること。
巨大な蛇のように絡み合い、形作られていくそれを見上げた王はおもしろそうにくすりと笑い、軽やかに蔦の階段を上りはじめた。
そんな王を諫めているのか、喜んでいるのか……
森の中から現れた小さな光達が、くるくると螺旋を描くようにして付き従っていく。