ユルトと精霊の湖
動物のような肉体を持たない王は、音もなく蔦の道を駆け上がる。
その速さは、すばしこい栗鼠など比べものにもならず、本当にあっという間のこと。
蔦が動き始めた数秒の後には、王は天窓のようにぽっかりと開いた葉の間から顔を出し、気持ちよさげに辺りを見回していた。
薄暗い森の中とは全く違う、明るい日がさし、爽やかな風が吹き付ける開放的な景色。
連なる森の緑と、抜けるように明るい空の青の対比の美しさに目を細めていると、ふうわり、と、王の髪を梳っていく一陣の風があった。
「風よ」
呼びかければ、友好的な風の精霊はすぐに群れ集い、王の求めに応じて先ほど聞こえた音の在り処を教えてくれる。
この森に住まう者が持たなかった答えも、世界中を旅する風が知っていた。
「……歌。なるほど、これが人の子の」
理解すると同時に、王は陽気な風に乗り、その“歌”を発する人の子の元へと飛んでいた。