ユルトと精霊の湖
「アイシャ、アイシャ、と私を呼びながら、探し回るのです」
その時の事を思い出したのか、湖精は苦し気に眉をひそめる。
「寂しそうで、悲しそうで……わたくしは……そう長くは耐えられませんでした……」
「今は泣いていても、人間の、しかも子供なんて、すぐに忘れるから。放っておきなさい、と皆で言ったのですが、それが……その、逆効果だったようで……」
気まずい様子でしおれたように羽根を落とした花精を、湖精は優しく指先で撫でる。
「忘れられる、わたくしは、そのことに耐えられなかったのです」
湖精は静かな瞳で王を見上げた。
「我が王よ、愚かな咎人たるわたくしを罰してください。この森と、水のために」
さらさらと、木々の葉が擦れる音に耳を澄ませ、王は静かに目を閉じた。
人の侵された湖精。
澄んだ湖と豊かな森。
そして、精霊を引き付ける歌と、それを歌う人の子。
しばらくの時間を置いて目を開いた王が見下ろすと、湖精は覚悟を決めた面持ちで、その首を差し出すように頭を垂れた。
王はその頭頂に手のひらをかざし、森の全てが息を飲んだ、その刹那。
噴き出した王の力が、頭から湖精に浴びせかけられた。