ユルトと精霊の湖
・双生王
・小さな王と青年の王
王の森の中ほどにある、気に入りの苔むした泉のほとりに着地すると、辺りには誰もいなかった。
不思議に思って辺りを見回すが、誰も出てくる気配がない。
いつもなら呼ばずとも出てくる、この泉の精さえも。
これが別の場所ならば、先ぶれもなく訪れたのだから当然と思うところだが、ここは王の森。
眷属達の宿らぬ物の方が少ないというのに、出て来ないのはおかしいのだ。
精霊なら気づかずにはいられない王の気配。
それを感じていながら、出て来ないということは……
嫌な予感に振り向くと、鼻先をこすりつけそうなくらい、非常に近い距離に嫌になるくらい見慣れた顔があった。
「うわっ!」
思わず叫んでしまった王に、相手はわざとらしく大きなため息をつき、優雅な仕草で自らの鼻先を撫でた。
「急に動くな。鼻が削げるかと思うたぞ」
表情を変えぬまま、そう言って王と対峙したのは、水鏡に写したように同じ姿。
深い緑が凝縮された、黒にも見える髪と目の色は、他の誰も持ちえない王だけの色をしている。
力にあふれたその色を纏ってなお、平然としているのは、それだけの力を持っていることの証拠に他ならなかった。