ユルトと精霊の湖
風に運ばれ、王がたどり着いたのは、翠色の水をたたえた小さな湖を囲む、人里近い森。
その森に入ると、普段は人里離れた森の奥深くにしかいないはずの小さな同族達が、キラキラと、燐紛にも似た細かな光の粒を散らしながら、そこかしこに舞っている。
「ずいぶんと、集まっているものだ」
音に乗せてつぶやくと、近くにいた同族の1人が小さな羽根をひらめかせて王の眼前に現れた。
大きさは、小さな王の手のひらほど。
ふわふわとした先端を持った触覚に丸い瞳、蝶のような2対の羽根を持つ精霊は、淡いピンクの光を放ち、近くに住まう花の精だと名乗りながら、嬉しそうに膝を折った。
「我らが王よ。お目にかかることができ、光栄でございます」
自らが宿る木や、草花などから離れることのできない精霊達は、こういった偶然がなければ、王にまみえることなどできない。
数年や数十年で命を終える動物達とは違い、何百年という長い生を生きる彼らではあるが、これは滅多にない珍事。
花精の後ろで、王の気配に気づいた小さな同族達も、何事か、とささやき合っているようだ。