ユルトと精霊の湖
どうやら、この片割れが去らないうちは、泉の精も出て来るつもりがないらしい。
ここで水浴びでも、と思っていた小さな王は、さわやかな目覚めの儀式となるはずだったところを邪魔され、面白くない顔を隠そうともしなかった。
しかし、これ以上言い募っても、ことごとくかわされて余計に面白くない状況になるのは目に見えている。
持久戦だ、と、仕方なしに泉の縁に腰をかけると、青年の王が独り言のようにつぶやいた。
「名前……か」
背を向けたままの言葉に顔を上げると、それに気づいたかのように振り返り、青年の王は言った。
「我らにも、そのようなものがあれば良かったのかもしれぬな」
放たれた言葉の意味をとらえきれずに見つめる小さな王を見下ろし、青年の王は僅かに目を眇めて見せる。
「名前なぞ……あったからとて、何か変わるものでもあるまい」
切って捨てるように言って、小さな王は立ち上がった。
「水浴びはいいのか?」