ユルトと精霊の湖
「数十年ぶりに目覚めたところで、この音……人の子の、“歌”が聞こえてな」
「まあ」

花精がは王の言葉を聞くと、興奮した様子で、くるくると回転した。

王を取り囲む小さな同族達も、花精と同じく興奮した様子で。口々にざわめきだす。

『王がやってきた』
『ユルトの歌を聞きに?』
『そうだよ』
『ユルトの歌を聞きに来たんだ』

どうやら、あの歌は彼らの間で有名になっているようだ。

そして、不思議なことに、同族達は、その人の子の歌を聞きに王が来たことを誇らしく感じているらしかった。

「ユルト?」

あちこちから上がった単語について問いかけると、飛び回っていた花精が答える。

「歌っている人の子の、名ですわ」

詳しく、と、王が手を差し出すと、花精はその指先に蝶のように羽根を休めた。

「人の子は、我らのような役目や、世界との繋がりがございませんの。ですから、それぞれに名をつけて、他と区別するんですわ」
「それでは、人の子はみな、それぞれ名を持っているのか?」
「ええ。あの子は、ここから少し山を下りた所にある人の村に生まれた、まだ幼い人の子で、名を、ユルト、と言いますの」



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