ユルトと精霊の湖

青年の王とて、小さな王の苛立ちに気づかなかったわけではない。

小さな王の様子を見るたび、その行動を相手がどう感じているのかがわかる。

最初はぼんやりとした霞のようなものだったそれが、あきらかな不快感となって自分に向けられているのを知るまで、そう時間はかからなかった。

「どうしてだろう?」

愛しい片割れが気に入りの泉を訪れた青年の王は、迷子の子供のように、心もとない目をしてつぶやいた。

「我らは、時を同じくして生まれた双子の王。それなのに、あやつは……」

言葉を失って、泉の縁に腰を落とした青年の王に、泉の精霊達は優しく寄り添った。

「我らは共にあるべき存在。そうであろう?」
「王よ……嘆かないで」

宥めるように髪を撫で、身を寄せる泉の精霊は、初めて見た時から変わらぬ若く美しい娘の姿をしている。

よく飽きないものだと思っていたが、その変わらない指先に安心しているのを、私は少しだけ恥ずかしく思った。

「あれが、共にいることを避けるようになったのは、いつからのことだったか…………もう随分と昔のことで思い出せないほどだ」


< 65 / 86 >

この作品をシェア

pagetop