ユルトと精霊の湖
小さな王が歩けば、明るい笑い声が森に響き、毎日のように小さな驚きがあった。
最初のうちこそ、精霊にあるまじき、と批判的だった者達も、今や、そのことを大きな声で物申すことはなくなったようだ。
それこそが、あの小さな王の最も偉大な力。
自由に歩き、人の子のように笑い、思うままに行動する。
その陰で悲しむ青年の王を知っていてる泉の精霊の目にも、そんな小さな王は美しく、光り輝いて見えた。
「我が王よ…………]
彼女達が願うのは、この森の安寧、ただひとつ。
この森を統べ、護る存在たる精霊の王が、正しく存在することだけだ。
それにより、世界の秩序は保たれ、彼女達も眷属も、役目を全うし、この世界に居続けることができる。
それは、彼女等だけでなく、王の森のもの全ての総意であり、唯一の望み。
だから、その清らかな腕に王の頭を抱いて、泉の精霊はそっと、ささやいた。
「どうぞ、御心のままに……」