ユルトと精霊の湖
「幼い、というと、どのくらいだ?芽か?それとも、若木か?」
王に問われた花精は、困ったように、羽根を動かした。
「歩いてここまでやって来るのですから、芽、よりは育っているのだと思いますわ。苗か、幼木、くらいの頃ではないでしょうか?」
「なんと!まだ、花も咲かせられぬほど幼い人の子が、あのような歌を放つのか?」
「ええ」
くすり、と笑った花精は、王の指先からひらりと離れた。
「それから、歌は、”放つ”ではなく、“歌う”と言うらしいんですの」
花精の言葉を繰り返すように、周囲の同族がざわめきだす。
『歌だよ』
『ユルトの歌だ』
『聞きたい』
『歌ってよ』
同族達のの言葉が人の子の耳に届くはずもないが、彼らの森の木々が揺れ、風精までもが、湖に向かって走り出す。
「皆、ユルトの歌を聞きに集まっているのです」
「集まったとて、人の子にわかるはずもなかろうに」
「ええ……でも、みな、ユルトの歌を近くで聞きたいのですわ」
花の精が言い終わらないうちに、王の森に届いた、あの歌声が響き出す。
つたない旋律、幼い声。
しかし、なぜか彼らを惹きつける魅力に満ちた声。
王は惹かれる心のままに、花の精を連れ、小さな湖に近づいていった。