ユルトと精霊の湖
初めて森の外に出た時のことは、忘れられない。
ほんのちょっと森の外へ出ただけだったのに、地には見たこともない植物が生え、空気の匂いも違っていた。
そう、考えてみれば、王の森を通して知る情報は、草木を通しての物が多く、彼らは自分の姿形や他者には興味がないのだ。
小さな王は、降り立った場所のすぐ近くに咲いていた小さな黄色の花を見ながら、そのことを知った。
「あやつは、面白くも無さそうな顔をしていたっけ」
夢中になって、初めて知った外の話をしながら差し出した小さな土産を受け取った時の、片割れの顔を思い出し、小さな王は大きなため息をついた。
「なぜ、双子、なのだ……あやつだけで十分だろうに」
どこか、どこか遠くに行きたい。
ここではないどこかへ……
自分だけが立つ、自分だけの場所に行きたい。
ひとりきりになれる場所へ行きたい。
どこかにある、そんな場所を見つけに出かけたい。
自分が自分であることを許される、そんな場所へ行きたい。
「たまらなく、行きたいのだ……」
そうつぶやき、小さな王は意識を手放した。