ユルトと精霊の湖
目覚めたばかりで、そばにいた馴染みの存在に等てしまったが、泉から離れた場所には行けない泉の精が、自分を連れてくることは不可能。
皆が畏れて近寄らぬ、王の樹に入り、自分に触れ、運べる者などいない。
ただ1人、自分の片割れたる、目の前の存在を除いては。
「……少し……歩かぬか」
ふざけるな、と、声を荒げそうになった小さな王をかわすように、青年の王は返事も待たず、背を向けて静かに歩きはじめる。
その言葉に従うものかとそっぽを向いた小さな王は、悲しげな顔をした泉の精霊達とまともに顔を合わせてしまい、仕方なく重い腰を上げた。
「まったく……なんなんだ……」
捨て台詞のように呟いて、小さな王は森の木立の間に消えた姿を追う。
しずしずと歩く片割れが苛立たしいと、前に出ようとしても、辺りに眷属の気配は感じられない。
移動に便利な風の精も、草木に宿る精霊さえも。
「なんなんだ、一体……」
仕方なく後を追い、歩いて行くと、なぜか明るく光が落ちる、小さな空間が現れた。