ユルトと精霊の湖
「これは……この花は…………あの時の……?」
呆然とつぶやく小さな王に気づき、青年の王は頬をゆるませる。
「ああ……」
小さな王から、足元の花達へと視線を向けて、青年の王はやわらかな声でつぶやく。
「初めはこの地に慣れず、危ういこともあったが……ここに移してから、調子がいいようだ」
その言葉通り、陽の当たる地面に点在する花達は、元気いっぱいに緑の葉を広げている。
「短き時を生きる小さな者達なれど、我にさまざまなことを教えてくれた」
青年の王が指先で繊細な黄色の花弁をくすぐるようにすると、小さな花は嬉しそうにその身を揺らした。
「ほんの数十年の間に仲間を増やし、こうして、立派に根付いた」
しなやかな茎を揺らし、王に応えようとする健気な様子を青年の王は、見たこともない穏やかな表情で耳つめる。
「今や、かけがえのない我が眷属……我の友だ」
王の言葉に、ふわりと霞のように漂う花達の、微かな喜びの声。
注意していないと見落としてしまいそうなくらいに小さな声に目を細める青年の王を、小さな王は声もなく見つめる。
とうの昔に、打ち捨てられたとばかり思っていた、小さな土産。
知らぬ間にに作られていた、陽の当たる小さな場所。
それを見る片割れの、見たことのない優しげな顔。