ユルトと精霊の湖
すぐそこにあったのに、見ようともしなかったそれらを前に、小さな王は立ちすくむ。
片割れと同じように、王の樹を覗いていれば。
少しは、窺い知ることができたのだろうか。
いや、それよりも。
離れることなく、以前と同じように、常に共にあれば……
そう考えて、小さな王は小さな手を握りしめる。
あの頃の自分は、そんな選択肢さえ考えようとはしなかった。
探られ、縛られることが嫌だと、片割れを厭うばかりで、露ほども知ろうとはしなかった。
ここで、片割れが優しい思い出を慈しんでいる間、愚かな自分は、逃げることしか考えていなかったというのに……
「……すまない」
小さな声に青年の王が顔を上げると、小さな王は、もう一度繰り返した。
「すまなかった」
「…………何を」
「私は愚かで……未熟だった」
「……そんなことはない」
「この森を慈しみ、護るべき存在だというのに……私はっ」
「……よせ」
自らに声を荒げる小さな王の震える肩を包み込み、青年の王は言った。
「それ以上は言ってくれるな。それに……間違っていたのは、我の方だ」
驚きに目を見開く小さな王を見下ろし、青年の王はもう一度、確かな口調で繰り返す。
「我が、間違っていた」
そして、指さしたのは、ぽっかりと開いた空。
「……行け。お前が望む場所へ。……この森の外へと」