ユルトと精霊の湖
思ってもみなかった言葉に、戸惑いと笑いを浮かべている小さな王を、青年の王は、動かぬ瞳で見返す。
「………………本気か?」
「精霊の王たるこの我が、言葉を違える、とでも?」
真面目に言う青年の王に、小さな王は狼狽え、周囲を見回す。
「何を言っている?!王たる存在が、この森を離れるなど」
「これまでも、幾度となく離れていただろう」
「……ほんの束の間、出向いていただけのこと」
「ならば、此度もそのように……思うままにするがいい」
言い合う声を聞きつけたように、周囲の空気が変わり、小さな王は空を見上げた。
さっきまで気配もなかった風の精霊達が、集い始めている。
ある者は少し不安そうに、ある者は嬉しそうに。
集い、戯れあいながら、こちらを窺うのは、何も知らぬ様子ではない。
「…………謀ったな……」
悔しそうに言う小さな王に、青年の王は顔を上げ、ほんのりと唇の端をゆるめて見せた。
「この森は我に任せ、そなたはどこへなりとも。その心のままに行くがいい」