ユルトと精霊の湖
〈間話〉 双生王の誕生
新たなる王が生まれる。

地上で最も緑深く、息づく精霊の多い、神秘なる精霊王の森は、声なき歓喜に包まれていた。

古き王が枯れ木のように地に伏し、それが種となり、引き金となるのか、わずか数年の時を経ただけで、時代の王は目を覚ます。

王の座が空白の間、精霊達は少しだけ、その力を弱めるが、王の樹から放たれる新たな王の気配が全てをあまねく照らす光のように、精霊達の心に安定をもたらしていた。


そして、迎える誕生の時。

側付きの精霊が、その波動を感じて近づくと、何人も近寄ることのできなかった全方位を包む球状の見えない壁が、雪解けの時を迎えたかのように崩れ落ちた。

『おお!ついに……』

感極まった側付きの声に、集まった精霊達の間に喜びが、さざ波のように広がっていく。

固唾をのんで見守る同胞達の中心で、神聖なる王の樹の洞にある見えない扉が開き、中から出てきたのは輝かしい2つの存在。

『……なんと?!』

初めての珍事に動揺する側付き達。

集まった精霊達の間にも、どよめきが広がっていく。

『唯一なるはずの王が双子とは……』
『これはいかなることか……』

不安に満ちた精霊達のざわめきを遮ったのは、甲高い声の持ち主だった。

「まあ!なんてすばらしい!」
「ちょっと、通してくださる?」
「どいて。じゃま」

ぐいぐい、と、森中の精霊が集まる中を縫うようにしてやってきたのは、まだ年若い、女の姿をした水精達。


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