ユルトと精霊の湖
王がそちらに目を戻すと、ユルト、という名の人の子は、湖精に向かって話しかけているようだった。
「どうかした?」
「いいえ…………」
こちらを見て、驚きに見開かれていた湖精は視線を戻し、小さな声で答えた。
その声の小さな震えと怯えに気が付いたらしいユルトは、心配そうに少女の肩を支えた。
「何か……こわいものでもいたの?」
こちらを振り向いた青い目は、まっすぐに王のいる繁みに向けられるたが、人の子と違い、血や肉で形成されているわけではない王の姿はもちろん、その周りに群れ集う小さな精霊達の姿も、その目で見ることは叶わない。
しかし、ユルトと一緒にいる湖精は違う。
目にすることはないだろうと考えていた王を目にした驚きと、内心の動揺を隠しつつ、ユルトに語り掛けた。
「ユルト、今日はもう帰った方がいいわ」
「え?もう?」
少女の姿をした湖精の言葉に、ユルトは拗ねたように唇を尖らせた。
「3日ぶりに会ったっていうのに……アイシャは、僕と会えなくて寂しいとは思わなかったの?」