ストーカーと王様と時々アサシン
第4章
◯自宅アパート・ドアの開いた玄関(夜)



突然過ぎるでしょ!


柳「私、知らない人とは結婚出来ません!」


正論だ。

立派な正論だ。

しかもこの理由なら、しょうがないってなるでしょ?

しかも時間稼ぎにもなる。

きっと栗林さんは自分を知ってもらおうとするだろうから、短くても数日の間には諦めてもらう策を練れるって寸法だ。


取り合えず今日は帰ってもらおう。



潔「では、私のことを知って下さい。
今日から一緒に暮らしますから、明日一日あれば大まかなことは分かってもらえると思います。後は結婚してからゆっくり知って下さい。」


猶予一日しかないの!?

しかも帰らない!?

潔「取り合えず、ここではなんですから中に入りましょうか。」


確かに、玄関開けたまま話し続けるのもどうかと思うんだけど、私は少し躊躇った。


このまま家に入ってしまっては、私の家なのにあちらのペースになってしまう予感が半端ない…


かと言って、知り合いの家に避難させてもらっても、このいきなり降ってきた問題の解決にはならない。


入るしかないのだろう。


憂鬱な面持ちで家の中に入り、部屋と玄関を区切るドアを開ければ、中央にあるコタツの上に夕御飯が用意されていた。

ロールパンに、サラダとフルーツ、そしてまだ料理の盛られていない大きなお皿とスープカップが各々二人分。


柳「これ、栗林さんが作ったんですか?」


潔「はい、柳さんと結婚した時のために料理は覚えてきました。今日は柳さんの好きな海老とアボカドのジェノベーゼパスタですよ。」


流石ストーカー、私の好きな物を知っている…


美味しそうな香りにお腹が鳴ってしまう。


潔「まずはご飯にしましょう。直ぐ出来ますから、座って待っていて下さい。」


柳「はい…」


まるで、私が客人のようだ…

が、ここは素直に座っておこう。


暫くして、私の目の前には湯気を上げるパスタと、コーンスープが運ばれてきた。







◯夕食後



断ったのだが、潔さんは食べ終えた食器も洗ってくれた。その隣でその食器を拭く柳。


潔「こうしてると、夫婦みたいですね。寧ろ夫婦ですね。」


潔は横に立つ柳を見てにこりと微笑む。


柳「そんなこと言ったら、世の中に何億人夫婦が誕生するか分からないですね。」


何がそんなに可笑しいのか「そうですね。」と潔は笑う。


笑顔もこれまたイケメンだ。


しかも、あんなに美味しいプロ並のご飯も作れてしまう。


そんなハイスペックな人が、何で私みたいな平凡な人間を好きになるんだろう?しかも、ちょっと箸休め的な感じではなく、結婚をご所望されていらっしゃる。


これは、壮大なドッキリ?


だったら全然許せるなー。


だから早く、陽気な音楽と共にネタばらしに来てほしい。


潔「さて、食器も片付け終わりましたし、そろそろ」


時計を見ると24時近くなっていた。


こんな時間だし、お風呂だよね?


心の底から帰ってほしい気持ちは変わりないけど 、食事を作ってもらって、その上食器の片付けまでしてもらった後で帰れってもね~


一晩くらいなら泊めてもいいか。


「先お風呂どうぞ。」と言おうとしたが、振り向くと同時に潔が柳にキスをした。


潔「ベッドに行きましょうか?」


柳「はい?」


潔「ベッドです。」


潔はにこりと微笑む。


柳「それは聞こえてました。そうじゃなくて!」


そう言う間にも、潔は柳の手首を掴みベッドのある隣の部屋へと引きずっていく。


潔「柳さんの言いたいことは分かります。ですが明日には夫婦になるんですから、一日くらいのフライングは許される範囲内ですよ。」


柳「イヤイヤイヤイヤ、範囲外ですよ!がっつり範囲外!て言うか!結婚することも了承してませんから!」


潔「大丈夫ですよ。直ぐに柳さんは全てを了承することになりますから。」


なんだ、その自信は!


潔「先ずは、"これ"から了承して下さい。」


ベッドへ押し倒され、潔は柳に覆い被さる。


潔「柳さんは、強引なのがお好きなんですよね?」


誰情報だよ!

間違ってないけど!


柳「だとしても了承なんてしませんから!」


潔「柳さんは了承してくれます。」


そう言うと、潔は笑顔を消し、真剣な顔で柳を見つめる。


潔「俺が、そうさせてやる。」


その潔のギャップに、迂闊にも甘い痺れが走ったことを柳は後悔するのだった。



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