夜だけ不良やってます!!
求めたもの
平穏を求めて
『行ってきます!』
いつもと変わらない1日だと思ってた。
この時の私はまだ「幸せ」というものがこうも簡単に崩れるとは思っていなかった。
目の前に広がる赫色。うまく息ができない。
私はまだあの時にとらわれている。
――――――――――――――――――――
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムの音で目を覚ます。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。またあの夢を見た。あの忌々しい記憶が脳裏に今も焼き付いている。いつか、あの日のことがトラウマではなくなる日までの約束とともに···
「···梨乃ちゃん、大丈夫?」
その言葉で我に返る。顔をあげると、私の顔を心配そうに見つめる爽くんと目が合った。今日もいつもと変わらず綺麗だな。初対面の人が女の子に間違えるのも頷ける。そのくらい中性的で綺麗な顔だ。
「何が?大丈夫だよ。」
本当は何を尋ねられているか分かっているが、ヘラっと笑ってそう返せば、爽くんは一瞬複雑そうな顔をするが、すぐにもとの心配そうな顔に戻る。
中学からの付き合いなので、そういった表情の変化はよく分かる。それは爽くんも同じなので、本当は何を考えていたのかわかっているのだろう。
ごめんねと心の中で謝る。
私が大丈夫と言えば、爽くんはこれ以上追求してこない。いや、これないと言った方があっているかな。
私達は付き合いは長いが、お互いを傷付けるのを恐れて一定のラインを越えないようにしているからだ。
「···ならいいんだけど、無理、しないでね?」
少し首を傾げて言ってくる。
か、かわいい…!何年も一緒にいるけど、やっぱり可愛いと思う。
「ありがとう。」
そう笑って返すと、爽くんも笑って返してくれた。
「あっ、そろそろ移動しなきゃ授業に間に合わなくなるからいこう?」
時間を見ると授業開始5分前だったため爽くんに言うと、こくんと頷いて次の授業の荷物をまとめ始める。
私も自分の荷物をまとめながら、あの日自分で決めた約束、いや戒めを繰り返す。
『明るく、笑顔で、朗らかに』
大丈夫。私の決意は決して崩れない。心配かけないようにしなくちゃ。
また、気を付けることがふえてしまった。やっぱり私はダメだな。
まぁ、今はこんなことを考えている時じゃない。とりあえず目先の事を考えなくては。
『明るく、笑顔で、朗らかに』
もう一度戒めを唱え、手首に光るブレスレットに触れる。
さぁ、戻ろう私たちの平穏へ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「梨乃ー。やっと帰れるねー」
「うん!そうだね」
帰りのHRが終わり声をかけてくれたのは、同じクラスの彩未。とにかく女子力が高くて、入学式以来同じ髪型をしているのを見たことがない。結構気が合う、仲のいい友達。
「ねぇねぇ、今日遊びに行かない?駅前のカラオケの無料券もらったのー」
「うーん。今日は梨音兄たちと帰るからパスかな。ごめんね」
手を合わせて謝ると、彩未はニヤリと笑い
「いいよ!むしろ嬉しい!!!」
と言う。
理由を聞こうとすると彩未が興奮気味に理由を教えてくれた。
「だって、梨音先輩くるんでしょ!!最高じゃん!」
あーそういうことか。その言葉に納得する。ていうか、傷付くんだけど…むしろ嬉しいって。まぁしょうがないか。
私の兄である、西音寺梨音はこの学校でとても人気がある。
頭脳明晰、成績優秀、容姿端麗などなど、あげればキリがないほどの完璧人間だからだ。身内をこんな褒めるのも恥ずかしいが、本当にそうなのだ。
私はちんちくりんだけどね。梨音兄にいい所を全部持ってかれたんだと思う。並んで歩くのが悲しくなってくる…
「キャ――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!」
彩未と話していると廊下から悲鳴のようなけたたましい叫び声が聞こえてくる。
「噂をすれば!!!!」
「梨乃、爽。帰るぞ。」
その一言を発しただけで、クラスの女子の8割が失神していく。恐ろしき梨音兄。
比較的見慣れているであろう彩未ですら、目を覆って何やらつぶやいている。
「…りぃくん。今、準備する。」
梨音兄の言葉にいち早く反応したのは爽くんだ。心なしか、頬が紅潮して美少年に磨きがかかっている。
「梨乃、青人たち待たせてるから、急げよー」
青人たち、ということはちーくんも来ているのだろう。目立つから後で合流すれば良いって言ったのに…
「梨乃!青人って方、誰!?新しいイケメン登場!?」
あ、彩未はまだ見たことがないのか。
「あおくんは、私の幼馴染で、名前は、有栖川青人。梨音兄と同じくらいイケメンで、人気あるよ。家が隣同士だから、家族ぐるみで付き合いがあるの。すごい優しいよ」
あと、これは彩未には言わないが、怒らせるとものすごく怖い。怒らせてはいけない人No.1。
「ねぇねぇ、青人たちって言ってるってことはもう一人いるってこと!?」
「へー!梨乃の周りにはイケメンいっぱいでいいなぁ…。まぁ、梨乃はすっっっごい可愛いから集まってきちゃうんだろうけどー」
彩未はすぐにこういうお世辞を言う。いつものことなのでスルーして、素早く帰りの準備をする。
「じゃあ、また明日ね!ばいばーい」
「あ、梨乃今日の埋め合わせちゃんとしてねー!楽しみにしてるから!!」
「うん!!もちろん!」
彩未と遊ぶ約束出来てよかったと思いながら、小走りで梨音兄のもとに向かうと、すでに爽くんが準備を終えて梨音兄となにやら話していた。
「…じゃあ、今日はそっち?」
「あぁ、そうなる。頼めるか?」
「…任せて」
何やら真剣な表情で話しているようだけど、待っているわけにはいかないので、声をかける。
「2人とも、待たせちゃってごめんね。」
「やっと来たか。行くぞー」
梨音兄も爽くんも私よりも背が高いはずなのに、歩いていておいていかれることはない。
多分、私のペースに合わせて、ゆっくり歩いてくれているんだと思う。私よりかなり身長の高い梨音兄は、特に。これはクラスの男子に「歩くのおそくないっすか?」と言われて、気づいたことだった。
何気ないことなんだろうけど、胸が暖かくなる。思わず、笑みがこぼれる。そんな私に気づいた梨音兄が
「どうかしたか?」
と私の方を向いて声を掛けてきた。
「ううん、なんでもないよー」
口もとがゆるんでいるため、たぶんひどい顔をしていると思うけど、しょうがない。
「ふーん」
と言う梨音兄は、よく分からないというような顔をしている。
そんな顔しないで欲しい。なんか私が変な奴みたいじゃないか。
そんな話をしていると、いつの間にか下駄箱に着いていた。
靴を履き替え外に出ると
「梨乃ちゃんたちーこっちこっちー」
私達を呼ぶ声がしてきた。声のした方を向くと、こちらに笑顔でぶんぶんと手を振るちーくんと、その隣でこちらに爽やかな笑顔を向けるあおくんがいた。
私は小走りでそちらに向かう。後ろからは梨音兄と爽くんが話しながらついてくる。
「ごめんね。待った?」
「大丈夫、全然待ってないよ。俺たちも今来たところ」
「よかった!」
あおくんが変わらず爽やかな笑みを携えながら、そう答える。長く待たせていたら悪いと思っていたので、少しホッとする。
「じゃーみんな揃ったから、帰ろー」
ちーくんが可愛らしい笑顔で言う。
ちーくんは爽くんとはまた別の可愛らしさがある。爽くんは中性的な顔立ちで、例えるならば美少年という感じだが、ちーくんは年下のような可愛らしさがある。
ちーくんも中学からの付き合いだが、変わらず可愛らしい。
「梨乃、今日は俺たち倉庫に行くから戸締りとかちゃんとしとけよ。たぶん泊まりになると思うから。」
みんなで帰っている途中に梨音兄から言われる。
「わかったー」
梨音兄たちは、いわゆる『不良』である。倉庫がその拠点であるらしいけど、私は行ったことがないからよく分からない。
倉庫に行く日はだいたい決まっていて、夜遅くに帰ってくるか泊まって帰って来ないかで、1回気になってついて行きたいとお願いしてみたが、キッパリと断られた。
まぁ危ないからだと思うけど、私そんなに弱くないんだよなぁ。そんな事梨音兄たちには口がさけても言えないけど。
自分が弱いせいで誰かが傷つくのはもうみたくないから。
「梨乃ちゃん、母さんたちに言ってあるからご飯とかしっかり食べてね。ほっとくとちゃんと食べないでしょ」
そう考えていると、あおくんに痛い所をつかれる。そんなに食べることに興味ないからさ。でも、あおくんのお母さんのご飯は大好きだから、絶対食べに行こうと思う。
「じゃあ、今日もお邪魔します。いつもありがとう!」
と言うと
「どういたしまして」
といいながら頭をふわふわと撫でてくれた。あおくんにはなんでも受け止めてくれそうな、不思議なやわらかさがあって、一緒にいるとつい頼りすぎてしまう。気をつけなくちゃ。
「···梨乃ちゃん、気をつけてね?」
「戸締りちゃんとするんだよー」
別れ際に爽くんと千佳に念を押された。そんなに心配しなくても大丈夫なんだけど…
こんなこと言うと私の過去の失敗の数々を言われるから、絶対に言えないけど
「うん、みんなも気をつけてね」
手を振りながら、みんなの姿が見えなくなるまで見送ってから、家までの残りの道を歩く。と言ってもそんなに距離かないからすぐに着くんだけど。
桜の花が散り始めて、緑の葉っぱが目立つようになってきた。この間入学式があったと思ったけど、もう4月も終わりに近い。
時が経つのはあっという間だが、過ぎた時が戻ってくることは決してない。幸せな時など儚く、脆いものだ。桜の花のように…
家について、中にはいる。いつものように玄関に置いてある写真に
「ただいま」
と言ってから、自分の部屋に向かう。
部屋に入って荷物を置いて制服から部屋着に着替える。部屋には玄関とは、また別の写真が置いてある。幸せだったあの頃の…
私もきっと梨音兄もこの時に縛られている。いや、梨音兄は私が縛ってしまっている。
たぶん負い目を感じているんだと思う。けど、梨音兄が負い目を感じる必要などない。全て私のせいだから。私は梨音兄にはあの時に縛られないで生きて欲しいんだけどな。私がそう言っても聞く耳を持たないだろうけど。
制服をハンガーにかけ、ふぅと短く息をはく。
そこでやっと、肩の力が抜けた。今日も一日、何も無く普通に過ごせた安心感。
『明るく、笑顔で、朗らかに』この鎖は、例え梨音兄たちの前でも例外じゃない。私が生きる限り解くことの出来ない、永遠の鎖…
思考の海に沈んでいた時、携帯が鳴ってはっとする。画面を見ると、あおくんのお母さんからLINEが来ていた。どうやら、ご飯の準備ができたらしい。今日もおいしいご飯を食べに、私はあおくんの家へ向かった。
いつもと変わらない1日だと思ってた。
この時の私はまだ「幸せ」というものがこうも簡単に崩れるとは思っていなかった。
目の前に広がる赫色。うまく息ができない。
私はまだあの時にとらわれている。
――――――――――――――――――――
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムの音で目を覚ます。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。またあの夢を見た。あの忌々しい記憶が脳裏に今も焼き付いている。いつか、あの日のことがトラウマではなくなる日までの約束とともに···
「···梨乃ちゃん、大丈夫?」
その言葉で我に返る。顔をあげると、私の顔を心配そうに見つめる爽くんと目が合った。今日もいつもと変わらず綺麗だな。初対面の人が女の子に間違えるのも頷ける。そのくらい中性的で綺麗な顔だ。
「何が?大丈夫だよ。」
本当は何を尋ねられているか分かっているが、ヘラっと笑ってそう返せば、爽くんは一瞬複雑そうな顔をするが、すぐにもとの心配そうな顔に戻る。
中学からの付き合いなので、そういった表情の変化はよく分かる。それは爽くんも同じなので、本当は何を考えていたのかわかっているのだろう。
ごめんねと心の中で謝る。
私が大丈夫と言えば、爽くんはこれ以上追求してこない。いや、これないと言った方があっているかな。
私達は付き合いは長いが、お互いを傷付けるのを恐れて一定のラインを越えないようにしているからだ。
「···ならいいんだけど、無理、しないでね?」
少し首を傾げて言ってくる。
か、かわいい…!何年も一緒にいるけど、やっぱり可愛いと思う。
「ありがとう。」
そう笑って返すと、爽くんも笑って返してくれた。
「あっ、そろそろ移動しなきゃ授業に間に合わなくなるからいこう?」
時間を見ると授業開始5分前だったため爽くんに言うと、こくんと頷いて次の授業の荷物をまとめ始める。
私も自分の荷物をまとめながら、あの日自分で決めた約束、いや戒めを繰り返す。
『明るく、笑顔で、朗らかに』
大丈夫。私の決意は決して崩れない。心配かけないようにしなくちゃ。
また、気を付けることがふえてしまった。やっぱり私はダメだな。
まぁ、今はこんなことを考えている時じゃない。とりあえず目先の事を考えなくては。
『明るく、笑顔で、朗らかに』
もう一度戒めを唱え、手首に光るブレスレットに触れる。
さぁ、戻ろう私たちの平穏へ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「梨乃ー。やっと帰れるねー」
「うん!そうだね」
帰りのHRが終わり声をかけてくれたのは、同じクラスの彩未。とにかく女子力が高くて、入学式以来同じ髪型をしているのを見たことがない。結構気が合う、仲のいい友達。
「ねぇねぇ、今日遊びに行かない?駅前のカラオケの無料券もらったのー」
「うーん。今日は梨音兄たちと帰るからパスかな。ごめんね」
手を合わせて謝ると、彩未はニヤリと笑い
「いいよ!むしろ嬉しい!!!」
と言う。
理由を聞こうとすると彩未が興奮気味に理由を教えてくれた。
「だって、梨音先輩くるんでしょ!!最高じゃん!」
あーそういうことか。その言葉に納得する。ていうか、傷付くんだけど…むしろ嬉しいって。まぁしょうがないか。
私の兄である、西音寺梨音はこの学校でとても人気がある。
頭脳明晰、成績優秀、容姿端麗などなど、あげればキリがないほどの完璧人間だからだ。身内をこんな褒めるのも恥ずかしいが、本当にそうなのだ。
私はちんちくりんだけどね。梨音兄にいい所を全部持ってかれたんだと思う。並んで歩くのが悲しくなってくる…
「キャ――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!」
彩未と話していると廊下から悲鳴のようなけたたましい叫び声が聞こえてくる。
「噂をすれば!!!!」
「梨乃、爽。帰るぞ。」
その一言を発しただけで、クラスの女子の8割が失神していく。恐ろしき梨音兄。
比較的見慣れているであろう彩未ですら、目を覆って何やらつぶやいている。
「…りぃくん。今、準備する。」
梨音兄の言葉にいち早く反応したのは爽くんだ。心なしか、頬が紅潮して美少年に磨きがかかっている。
「梨乃、青人たち待たせてるから、急げよー」
青人たち、ということはちーくんも来ているのだろう。目立つから後で合流すれば良いって言ったのに…
「梨乃!青人って方、誰!?新しいイケメン登場!?」
あ、彩未はまだ見たことがないのか。
「あおくんは、私の幼馴染で、名前は、有栖川青人。梨音兄と同じくらいイケメンで、人気あるよ。家が隣同士だから、家族ぐるみで付き合いがあるの。すごい優しいよ」
あと、これは彩未には言わないが、怒らせるとものすごく怖い。怒らせてはいけない人No.1。
「ねぇねぇ、青人たちって言ってるってことはもう一人いるってこと!?」
「へー!梨乃の周りにはイケメンいっぱいでいいなぁ…。まぁ、梨乃はすっっっごい可愛いから集まってきちゃうんだろうけどー」
彩未はすぐにこういうお世辞を言う。いつものことなのでスルーして、素早く帰りの準備をする。
「じゃあ、また明日ね!ばいばーい」
「あ、梨乃今日の埋め合わせちゃんとしてねー!楽しみにしてるから!!」
「うん!!もちろん!」
彩未と遊ぶ約束出来てよかったと思いながら、小走りで梨音兄のもとに向かうと、すでに爽くんが準備を終えて梨音兄となにやら話していた。
「…じゃあ、今日はそっち?」
「あぁ、そうなる。頼めるか?」
「…任せて」
何やら真剣な表情で話しているようだけど、待っているわけにはいかないので、声をかける。
「2人とも、待たせちゃってごめんね。」
「やっと来たか。行くぞー」
梨音兄も爽くんも私よりも背が高いはずなのに、歩いていておいていかれることはない。
多分、私のペースに合わせて、ゆっくり歩いてくれているんだと思う。私よりかなり身長の高い梨音兄は、特に。これはクラスの男子に「歩くのおそくないっすか?」と言われて、気づいたことだった。
何気ないことなんだろうけど、胸が暖かくなる。思わず、笑みがこぼれる。そんな私に気づいた梨音兄が
「どうかしたか?」
と私の方を向いて声を掛けてきた。
「ううん、なんでもないよー」
口もとがゆるんでいるため、たぶんひどい顔をしていると思うけど、しょうがない。
「ふーん」
と言う梨音兄は、よく分からないというような顔をしている。
そんな顔しないで欲しい。なんか私が変な奴みたいじゃないか。
そんな話をしていると、いつの間にか下駄箱に着いていた。
靴を履き替え外に出ると
「梨乃ちゃんたちーこっちこっちー」
私達を呼ぶ声がしてきた。声のした方を向くと、こちらに笑顔でぶんぶんと手を振るちーくんと、その隣でこちらに爽やかな笑顔を向けるあおくんがいた。
私は小走りでそちらに向かう。後ろからは梨音兄と爽くんが話しながらついてくる。
「ごめんね。待った?」
「大丈夫、全然待ってないよ。俺たちも今来たところ」
「よかった!」
あおくんが変わらず爽やかな笑みを携えながら、そう答える。長く待たせていたら悪いと思っていたので、少しホッとする。
「じゃーみんな揃ったから、帰ろー」
ちーくんが可愛らしい笑顔で言う。
ちーくんは爽くんとはまた別の可愛らしさがある。爽くんは中性的な顔立ちで、例えるならば美少年という感じだが、ちーくんは年下のような可愛らしさがある。
ちーくんも中学からの付き合いだが、変わらず可愛らしい。
「梨乃、今日は俺たち倉庫に行くから戸締りとかちゃんとしとけよ。たぶん泊まりになると思うから。」
みんなで帰っている途中に梨音兄から言われる。
「わかったー」
梨音兄たちは、いわゆる『不良』である。倉庫がその拠点であるらしいけど、私は行ったことがないからよく分からない。
倉庫に行く日はだいたい決まっていて、夜遅くに帰ってくるか泊まって帰って来ないかで、1回気になってついて行きたいとお願いしてみたが、キッパリと断られた。
まぁ危ないからだと思うけど、私そんなに弱くないんだよなぁ。そんな事梨音兄たちには口がさけても言えないけど。
自分が弱いせいで誰かが傷つくのはもうみたくないから。
「梨乃ちゃん、母さんたちに言ってあるからご飯とかしっかり食べてね。ほっとくとちゃんと食べないでしょ」
そう考えていると、あおくんに痛い所をつかれる。そんなに食べることに興味ないからさ。でも、あおくんのお母さんのご飯は大好きだから、絶対食べに行こうと思う。
「じゃあ、今日もお邪魔します。いつもありがとう!」
と言うと
「どういたしまして」
といいながら頭をふわふわと撫でてくれた。あおくんにはなんでも受け止めてくれそうな、不思議なやわらかさがあって、一緒にいるとつい頼りすぎてしまう。気をつけなくちゃ。
「···梨乃ちゃん、気をつけてね?」
「戸締りちゃんとするんだよー」
別れ際に爽くんと千佳に念を押された。そんなに心配しなくても大丈夫なんだけど…
こんなこと言うと私の過去の失敗の数々を言われるから、絶対に言えないけど
「うん、みんなも気をつけてね」
手を振りながら、みんなの姿が見えなくなるまで見送ってから、家までの残りの道を歩く。と言ってもそんなに距離かないからすぐに着くんだけど。
桜の花が散り始めて、緑の葉っぱが目立つようになってきた。この間入学式があったと思ったけど、もう4月も終わりに近い。
時が経つのはあっという間だが、過ぎた時が戻ってくることは決してない。幸せな時など儚く、脆いものだ。桜の花のように…
家について、中にはいる。いつものように玄関に置いてある写真に
「ただいま」
と言ってから、自分の部屋に向かう。
部屋に入って荷物を置いて制服から部屋着に着替える。部屋には玄関とは、また別の写真が置いてある。幸せだったあの頃の…
私もきっと梨音兄もこの時に縛られている。いや、梨音兄は私が縛ってしまっている。
たぶん負い目を感じているんだと思う。けど、梨音兄が負い目を感じる必要などない。全て私のせいだから。私は梨音兄にはあの時に縛られないで生きて欲しいんだけどな。私がそう言っても聞く耳を持たないだろうけど。
制服をハンガーにかけ、ふぅと短く息をはく。
そこでやっと、肩の力が抜けた。今日も一日、何も無く普通に過ごせた安心感。
『明るく、笑顔で、朗らかに』この鎖は、例え梨音兄たちの前でも例外じゃない。私が生きる限り解くことの出来ない、永遠の鎖…
思考の海に沈んでいた時、携帯が鳴ってはっとする。画面を見ると、あおくんのお母さんからLINEが来ていた。どうやら、ご飯の準備ができたらしい。今日もおいしいご飯を食べに、私はあおくんの家へ向かった。