※怪異にご注意※
運動靴で来たのが不幸中の幸い。
こんな坂道をヒールで登るなんて絶対に無理だった。
坂道を登りきり、平地に戻ると少し先にぽつんと家が建っていた。
「はぁ…はぁ…、もしかして…あれ…?」
あたしは重たい足を動かした。
-------------------------------------------
もしかして…ここ…?
あたしは目の前の光景に絶句した。
そこには、大きな屋敷が堂々と建っていた。
庭には枯れた花、水が渇ききった噴水、屋敷のドアは今にも崩れそうだ。
まるで廃館だ。
だが、雰囲気がとても廃館とは思えないほどの威圧を感じる。
何かに守られているような。
あたしがそうこうしていると、屋敷の中から誰かが出てきた。
遠目からでもわかるほどの綺麗な金髪、白い肌、ブルーの綺麗な瞳、しっかりと整えられた黒のスーツ。
まるで、絵本の世界から飛び出してきたかのような風貌の男性がなんの迷いも無くこちらに向かってくる。
歩き方までが美しい。
すらっとした足と手。
あたしはファッションショーでも見てるかのような錯覚に襲われた。
「お待ちしておりました」
あたしは、異国の王子の言葉でふと我に返った。
「ぇ…」
お待ちしておりました?
なんで?
あたしが来るのをわかっていたかのように、手際良く門を開く。
「鶴伽様がお部屋でお待ちです」