消えてしまう君に捧げる
「安藤さん、友達沢山いそうだけど」
「中学生まではね、沢山いたよ。だけど私がこの病気になってから、一切連絡をくれなくなっちゃったんだ。…病気が移ったら嫌、らしいよ」
この病気は、誰にも移らない。
突然発症するものだから。
もし移るなら僕はこうして彼女と顔を合わせることは出来ない。
どうして移るのが嫌、と友達が言っているのを知ったのかは知らないけど、知った同時は辛かっただろう。
友達の言い分も分からなくないけど。うつったら必ず死ぬんだから。
それから数時間、僕は彼女と何気ない会話をした。
主に、彼女が話していたけど。
自分のこと、家族のこと、ペットのこと、趣味のこと。それはもう、たくさん。
僕はそれによって彼女の情報をたくさん手に入れた。別に手に入れたいわけじゃなかったけど。
そして気づいた。この人は、思ったより強くない。
笑っているように見えるけど、実は中身は繊細で、自分が言っていることにも傷ついている。
…この人は僕と居て、楽しいのかな。
プリントを届けに来たのが僕じゃなかったら、もっと楽しめたんだろうな。
「今日はありがとう」
「…うん。じゃあ」
これでもう、彼女に会うことは無い。良かった、これ以上僕も辛い思いをしなくて済む。