消えてしまう君に捧げる


「ねぇ」


「…?」


「これ」


手渡されたのは、小さな紙切れだった。


開いてみると、そこにはメールアドレスと電話番号が書かれていた。ついでに、名前も。


「また来て欲しい。私とお話しようよ」


「僕とお話しても、楽しくないんじゃないかな」


「楽しいよ、すごく。まぁ表情があんまり変わらないのはつまんないけどね」


そう言い、にこ、と微笑んだ。


これ以上関わりたくないと今さっきまでは思っていたのに、僕って案外ちょろいのかもしれない。


嬉しいと、思ってしまったんだから。



それから僕は放課後毎日、彼女の病室に足を運んだ。


彼女はベッドの上、僕はベッドの傍らにあるイスの上。話したい時に話しかけて、それ以外は自分の好きなことをしていた。


例えば僕は本を読んだりクロスワードを解いたりして、彼女はひたすらパソコンに文字を打ち込んでいた。


僕が画面を覗こうとすると、ちょっと怒った。


「だーめ、見せません」


「なんでよ。少しくらい見せてくれてもいいだろ」


「私が死んだら見てもいいよ?」


「…じゃあ一生見ることはないかもな」


本心でそんなこと言うわけない。いつか必ず見る日はくる。


彼女は僕がそう思ってることを知ってるから、それ以上何も言ってこない。ただ、微笑むだけ。


僕は知っていた、彼女が何をしているのか。


彼女は小説を書いているのだ。それ以外考えられない。


パソコンにひたすら文字を打ち込み、ノートにペンを走らせる。


1度だけノートは見たことがあった。


きれいな字で、
"安藤 小春→透明病"
"飯島 〇〇→春の唯一の友達"
と書かれていて、その他にも色々。


彼女は、自分と僕の小説を書いているんだ。





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