涙の裏側    ~もう一人の私~
友達のいない私は

外食すらあまり経験がない。

まして、喫茶店なんて大人の場所に………一人で入る勇気はなく

足を踏み入れたことはない。

「……………………あの…………」

歯切れ悪く佇む私に

「あれっ?
もしかして、雨が降りだした??
こっちにおいで、濡れてても良いから。」

30代後半と思われる店員さんに、気さくに声をかけられる。

オズオズと前に進むと

クスッと笑って

「別に変なことしないから、座りな。
コーヒーで大丈夫?」って。

「……………………はい。」

勧められるままカウンターに腰を下ろして

丁寧にサイフォンで淹れられるコーヒーを眺める。

「いくつ?」

「えっ?!」

「あぁ、ごめんごめん…………歳。
こんな寂れた喫茶店に、若い女の子が来るなんて珍しいから
幾つかな?って思って。」

「………………二十歳です。」

「二十歳?!
俺が高校卒業の頃に生まれたんだぁ!」

明るい店員さんに、さっきまでの落ち込みが少しだけ浮上する。

「はい、どうぞ。
ミルクとお砂糖も、遠慮なく。
こういった専門店だと
ミルクや砂糖を入れるのは失礼だと思うみたいで
遠慮する人が多いんだ。
俺からしたら、好きな飲み方で飲んで欲しいんだけどね。
ようは、その人が『美味しい』って思ってくれることが大切でしょ。
だからどうぞ、飲みたいように飲んでね。」

二十歳の私が飲みやすい配慮。

幼稚園の先生達みたいに、優しく温かい。

そう思ったら

昨日からの出来事が頭に浮かんで………

涙が溢れてくる。

「あちゃ、雨が降りだした。」

ニコッと笑って

「ちょっとお留守番頼んで良い?
タバコ吸ってくる。」と席を外した。




一人になったお店で…………

ワァンワァンと………………声を堪えることなく大泣きをした。

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