涙の裏側    ~もう一人の私~
「ただいま。」

涙が止まった頃を、見計らったように戻ってきた店員さん。

先ほどと変わらない笑顔で

「ホイッ。
お留守番のご褒美。」と言って

バニラアイスを差し出してくれる。

「…………………ありがとう…………ございます。」

スプーンですくって一口入れると

涙で塩辛くなった体が、ホッと一息ついたような気がする。

「………………………美味しい。」

「コーヒーよりも、こっちが似合うね。
雨足が強くなってきたから、それ食べたら送って行くよ。」

「あっ……いえ…………。」

「警戒しなくても一回り以上離れた女の子を襲う趣味はないから
安心して!」

「あっ……そうじゃなくて……………。
お店…………………。」

「あぁ!それなら大丈夫。
もうすぐ、交代のヤツが来るから。
昼間は俺が経営者で………
夜は、もう一人のヤツが経営者になるんだ。
ここ、夜はbarになるから。」

「それで、薄暗いんだ。」

「まさか、怪しい喫茶店かと思った?
経営者も胡散臭そうだし。」

「………いえ。
ただ、経営者だとは……………。
店員さんだと思っていて………。」

「この歳で、バイト君はないでしょう。
もしかして、世間知らず?」

「あっ!ヒドイ!」

笑いながら抗議すると

「やっと笑顔が出た。」と。

外は雨。

あのまま帰っていたら、一人で落ち込んでた。

迷って入った喫茶店は…………

初めてなのにホッとする空間と温かい飲み物

優しい経営者さんが、心を穏やかにしてくれた。
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