涙の裏側    ~もう一人の私~
「お邪魔します。」

マスターの車に、自然に乗る自分に驚く。

「どうした?」

静かな私を不信に思ったのか、問いかける。

「出会ってそれほど日は経ってないのに
自然に車に乗ってるなぁって思って。
私…………誰かとゆっくり同じ時間を過ごしたことがないから不思議で………。
双子の妹の話しをしましたよね?
咲々は、生まれた時から心臓が悪く
病院から出たことがないんです。
同じ時間に同じ母親のお腹から生まれたのに
私はとっても元気で……………。
だからかな?
咲々には申し訳なくて、罪悪感を感じてしまうの…………。
小さい時から、母親も父親も咲々につきっきりで
一緒にご飯を食べた記憶すらなくて。
いつも家政婦のおばちゃんが作ったご飯を
一人で食べてたんです。」

静かに聞いてくれるマスターは

さりげなく、遠回りしてくれている。

「人と会話する機会が少ない私は………
相手を思いやってあげることが苦手みたいで
冷たいってよく言われちゃいます。
だから
お店に馴染んだこと。
車にすんなり乗ること。
こんな風におしゃべりすることが、不思議だなって。
もちろん、マスターの人柄だけど………」

「それはたぶん、咲ちゃんが大人になってきたんだよ。」

「そうなのかな??」

「良いんじゃない。
大人になったら、生きやすくなるかもよ。
純粋は、キレイだけど……
傷つき易いでしょ?
ちょっと濁った方が、きっと楽なはずだよ。」

生きやすくなる。

そうだったら…………嬉しいな。

私はずっと……………何かと戦ってきたから……………。

見えない何かと……………。
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