涙の裏側    ~もう一人の私~
「さぁ、着いた。
降りよう。」

降りようと言われたけど、どう見ても私のウチの前ではない。

戸惑う私に

「変な気持ちは起きないから、ついておいで。
ご飯は、一人より二人の方が美味しいよ。」

甘い誘惑について行くと

マンションのエントランスを抜けて、コンシェルジュさんに挨拶してる。

「今度から、時々来ると思うのでお願いします。」

私を前に押し出して、紹介する。

「こんばんは。」

「こんばんは。
はい、よろしくお願いします。」

小娘の私にも、丁寧に挨拶してくれる。

ポンポンと肩を抱きよせ、自然にエレベーターに誘導して行く。

あれっ?

ここって、マスターのマンション?

今更な驚きに足を止めると

「どうした?」って。

「あっ、だって。
ここって…………………。」

言い淀む私に

「さっきも言ったでしょう。
変な気持ちにはならないって。
ご飯食べたら、送って行ってあげるよ。」って

悪意の全くない笑顔で微笑まれた。
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