恋と眼鏡
恋と眼鏡
……はぁーっ。

吐いた息はすでに白くない。
それほどまでに長い時間、ここでうずくまっているから。

細い路地から見上げた大通りにはたくさんの人が行き交っていた。

大多数の和装に混ざって、最近では珍しくなくなってきた洋装の人。
男、女。
大人、子供、老人。

時折通る、馬車や人力車が土煙を上げる。

でも、誰ひとり私に目を向ける人はいない。

……はぁーっ。

再び息を吐き出して目を閉じる。

腫れ上がった瞼で、長い時間目を開けているのはつらかった。
あちこちずきずきと痛む身体。
もしかしたら骨でも折れているのかもしれない。



今朝、とうとう追い出された屋敷は酷いところだった。
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