恋と眼鏡
呉服商を営む旦那様も奥様もみんな、使用人のことはごみ扱いだった。

殴る蹴るは当たり前。
一度は、皿を投げつけられて額が切れた。

もちろん、医者になんて診せてもらえないから酷い跡になって髪で隠している。

けれど、そんなことをされても我慢するしかない。

私の家は貧しく、半ば口減らしでここへ奉公に出された。
だから追い出されても行くところがない。

今朝も味噌汁が熱すぎるって、突然あたまからかけられ殴られた。

ただ、いつもと違っていたのは、このところ商売が失敗続きで旦那様の虫の居所が悪かった、ってこと。

だから、私が動かなくなっても旦那様は私を殴り続けたし、立ち上がることもできない私をそのまま、屋敷から放り出した。

「雪だ」

聞こえる声に重い瞼を薄く開けると、地面にひらひらと白いものが舞い落ちてきた。
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