恋と眼鏡
点々とシミを作っていくそれは、私の上にも少しずつ降り積もっていく。
寒いはずなのに、少しも感じない。

ああ、私はこのまま死ぬのかな。

ただただ、生きるためだけに生きてきた。
死んだところで、なにも変わらない気がする。

「そこでなにをしているんですか?」

誰かが、なにかを言っている。
もしかして、警官なのかもしれない。
こんなところにいるな、迷惑だ、と。

「寒いでしょう、それでは」

ふわり、かすかにいい匂いがしたかと思ったら、なにか暖かいものに包まれた。
のろのろと顔を上げ開かない瞼を必死で上げる。
ぼんやりと見えた視界の中で、洋装の若い男が立っていた。

「ああ、痛かったでしょう」

そっと、男の手が私の顔にふれ、思わずびくりと身体が震えた。
男は一瞬手を止めたが、そのまま自分のかけた外套で私をくるんで抱き上げる。
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