恋と眼鏡
「私と一緒に、いらっしゃい」

温かい男の笑顔に身体を預け、目をつぶった。
きっと、この男は私をあの世に連れにきたお迎えなのだろう。
ならば……。



「祐典(ゆうすけ)! 
いい加減に俺の話を聞かないか!」

「だから。
何度お話しいただいても、私の気持ちは変わりませんから」

お茶を出しながら孝利(たかとし)さまと祐典さまの言い争いに、いつものことだとわかっていながらはらはらしてしまう。

「当主であるおまえが早く結婚しなければならいことくらいわかるだろ!」

孝利様が怒鳴りつけ、はぁーっと祐典さまの口から深いため息が落ちた。

「わかっていますよ、それくらい。
ただ、叔父上からご紹介いただく相手とは結婚しない、と言っているのです」

銀縁の、眼鏡の奥から送られる冷たい視線。
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