恋と眼鏡
「えっと」

するり、私の手を撫でて、祐典さまの手が離れた。

「夜、私の部屋においでなさい」

「……はい」

大急ぎで食器をお盆に載せ、軽く一礼して逃げるように部屋をあとにする。

火がついたかのように熱い顔、ばくばくと早い心臓の鼓動。

このごろの私はどこか、おかしい。



祐典さまは前の屋敷を追い出され、死にそうになっていた私を救ってくれた恩人だ。

華族で、事業も成功してお金持ちの祐典さまからすればただ、哀れんでくれただけなのかもしれない。

あのまま死ねず、つらく苦しい人生をまだ歩まなければならいことがわかったときは恨みもした。

でも、いまは感謝している。
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