恋と眼鏡
高遠の家は、前に奉公していた屋敷に比べなくても天国だった。

使用人なのにふかふかの布団を与えてくれて、ごはんもおなかいっぱい食べられる。
服だって、紺の着物に臙脂の帯、白の西洋風エプロンという奴が女中には揃いで支給されている。

訪れた孝利さまにたまに殴られることはあるが、祐典さまもほかの使用人も、私を殴ったりしない。

それどころか、小学校すら出ていない私に、祐典さまは執事の鷹司(たかつかさ)さんに命じて読み書きを教えてくれる。

この世に、こんなところがあったのかっていうくらい幸せで、こんな天国に連れてきてくれた祐典さまは神様じゃないかと思う。



下げた食器を洗っていると、指先に水がしみた。
祐典さまの言う通り、少し荒れているかもしれない。

片付けが終わり、繕いものなどの仕事をして、夕食の時間になると祐典さまの給仕につく。

高遠の屋敷は洋風で、食事も西洋料理が多い。
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