恋と眼鏡
「加代も一緒に食べればいいのに」

いたずらっぽく祐典さまの、眼鏡の奥の瞳が笑うが、黙ってグラスに水を注ぐ。
ひとりでの食卓は淋しいのかもしれないが、使用人の私がご相伴に預かるなど、できようはずがない。

……ここの屋敷には数人の使用人をのぞくと、祐典さましかいない。

祐典さまのご両親は数年前、船の事故で亡くなったそうだ。
なのでまだ大学生の祐典さまが家督を継ぎ、兄弟もいないのでこの屋敷でひとり、暮らしている。

祐典さまの食事が終わったら片付けをし、自分の食事をとる。
そして皆が仕事終わりでくつろいでいる時間に、……祐典さまの部屋を訪れる。

――コンコン。

最初のうちは戸惑ったノックも、いまでは慣れたものだ。

「はい」

「祐典さま、加代です」

「お入りなさい」
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