俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
テーラーの老紳士が帰った後、受け取ったスーツを和樹さんのクローゼットがある主寝室へ運ぶ。
私が使っている部屋よりもひと回り広いその寝室には、存在感満点のキングサイズのベッドが置いてあって、いつも少しドキドキしてしまう。
ハンガーにかかったスーツをクローゼットの扉にかけて、ふぅっと息を吐き出した。
仕立て上げられた上品なチャコールグレーのスーツを見ながら、電話で隼人に言われた言葉を心の中で繰り返す。
『もっと相手が本気で嫌がることをしないと意味ないだろ。勝手に高価なものを買いまくって散財するとか、あいつの大切なものを壊すとか……』
このオーダーメイドのスーツは、きっとすごく高価なものだろう。
まだ一度も袖を通していないスーツを私がやぶいてしまったら、さすがに和樹さんも怒るはず。
リビングから切れ味のいいハサミを持ってきて、スーツと向き合う。
よし。これでスーツを切ってしまえば、嫌われること間違いない。愛想をつかされ離婚へ一歩近づける。
だけど……。
意を決してハサミを持ってスーツに近づいたけれど、寸前で手が止まってしまう。