俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
優し気で上品な老紳士の顔を思い出してしまった。
あの人が丹精込めて仕立てたスーツをダメにしてしまうなんて申し訳ない。
いや、心を鬼にして嫌われることをしないといつまでも離婚できないし。
でも厳しかった祖母に物を大切にしなさいと小さなころからしつけられてきたのに、こんな無駄なことをするなんて心が痛い。
でも、でも……っ!
主寝室の中をうろうろしながら頭を抱えたりスーツに向き合ったりしていると、手にしていたハサミが手から滑り落ちた。
「あ……っ」
慌てて持ち直そうとしたけれど、ハサミは指をすりぬけ落ちていく。
そして――
「きゃーーーーっ!!」
予想外の展開に、私はひとり悲鳴を上げた。