俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
「MAパートナーズ……。たしかアジア系の投資ファンドか」
「そうです。うちが香港での地下鉄新設工事の有力候補に挙がっていると聞きつけたのではと」
「まだ受注も決まっていないのに、ずいぶん耳ざといな」
香港の地下鉄新設は、俺が半年前まで先頭に立って進めていた案件だった。大宮建設の技術力を武器にあちこちに根回しし、設備を整え、人員をそろえ、工事を受注できるだけの信頼と土台を築いてきた。
これで無事勝ち取れば一千億円規模の受注になるし、さらなる海外進出の足掛かりにもなる。
それにともない、充分な資金を得たいのも事実だが……。
「このタイミングで出資を申し出てくるなんて、李グループの息がかかっているのは間違いないだろうな」
李グループというのは香港有数の大企業で、政府とも深いパイプを持ち絶大な権力を握っている一族だ。
敵には回したくない。けれど近づきすぎれば飲み込まれかねない。そんなやっかいな相手。
「そうでしょうね」
「あちらに付け入る隙を与えたくはないし、工事を受注できれば今取引をしている銀行から十分な額の融資を受けられるだろうから、話を聞く必要はないだろう」
俺が首を横に振ると、穂積は「わかりました」と短くうなずいた。