俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
「小学六年生のときに母を亡くして。そのあとからですね、和樹が女性不信になったのは」
「なにが、あったんですか?」
恐る恐るたずねると、穂積さんはこちらを見て薄く微笑んでから目を伏せた。
「和樹の父である社長もとても魅力的な男性ですから、妻を亡くした今がチャンスだと言い寄る女性がたくさんいました。大宮建設の社長の妻の座を射止めるために、母親を亡くしたばかりで落ち込む和樹を利用しようとする女性も」
「利用……?」
「父親に取り入るよりも、息子を手懐けるほうが簡単だと思ったんでしょうね。社長の秘書を務めていた女性が奥様の後釜を狙って、純粋な彼を色仕掛けで誘惑して、自分の思い通りに動くコマにしようとした。当時の和樹はすでに小学生には見えないくらい大人びて整った外見をしていましたから」
母を亡くしたばかりの子供相手に色仕掛けんなんて……。
とても信じられなくて、心臓が凍り付いたかと思った。
「まだ小学生の彼には、母が亡くなった途端その座を狙って金のためになりふりかまわず自分をベッドに誘って取り入ろうとする女は、きっと醜悪でおぞましい生き物に見えたでしょうね」
私が言葉を無くしていると、穂積さんは気遣うように小さく微笑む。
「大奥様の幸恵様が和樹の異変に気付いてその秘書をすぐにクビにして事なきを得ましたが、和樹の心に受け付けられた女性に対する強い不信感は、彼の性格を変えてしまった」
そんなことを体験したから、和樹さんは結婚に愛情を求めないんだ。
誰も信用できず、心を閉ざしてしまうのも、無理はない。
今まで私に向けられたつめたい言葉は、それだけ彼が傷ついてきたという証だ。