俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
 

挨拶を終えた後、ご両親の許可を得て旅館の帳場に入らせてもらうことにした。

鈴花の立会いのもと、旅館の帳簿に目を通す。
経営難に陥っているこの旅館の現状を知るためだ。

「いかがですか?」

心配そうにたずねる鈴花に、「予想以上に厳しいな」と素直な感想を漏らす。

大学時代はアメリカの大学で経営学を学び、MBAも取得した。
企業の経営状態を改善するためのノウハウは心得ているつもりだが、それにしてもひどい。

「このままでは赤字が膨らむばかりで、数年で立ち行かなくなるだろうな」

俺の容赦ない感想を聞いた鈴花の顔が曇った。

「まず無駄が多すぎる。もっと効率的なシステムを作って利益率を上げる必要があるし、仕入れの方法も見直した方がいいな」
「効率的なシステム……」

ぽかんとしながら繰り返す鈴花を見下ろしながら、分厚い帳簿を閉じる。

「今どき予約から顧客情報まで全部紙の帳簿で管理してるなんて、アナログすぎて驚いた。常連客が泊まるたび、宿泊名簿をめくって過去の記録を確認しているのか?」
「それは、一昨年亡くなった大女将の祖母が、ご贔屓様のことをすべて覚えて把握していたので……」
「その大女将が亡くなって、サービスの質が低下したのか」

その言葉に、鈴花はしょんぼりと肩を落としながら頷く。

宿泊客の食べ物やお酒の趣味からアレルギー。記念日や家族構成。
長年のお付き合いでため込んだ顧客の情報が詰まった宿泊台帳は、旅館の歴史の長さゆえに膨大な量になっている。
いちいちめくって確認する時間の余裕はないのが正直なところだろう。

以前は何も言わなくても客ひとりひとりの好みを把握し快適な時間を提供していたのに、それができなくなっては常連客が離れて行くのも無理はない。


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