俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
その中で一番の存在感を放つ、堂々とした枝ぶりの大きな黒松を見ながらしみじみとつぶやく。
「ここが、鈴花が俺と結婚してまで守りたいと思った場所なんだな」
車で旅館の前に降り立った瞬間に、建物の持つ迫力に圧倒された気がした。
年輪が美しい欅の一枚板に『日野屋』と力強く彫り込まれた歴史ある看板。
その看板の上に突き出す唐破風の屋根。
入り口に立つだけで、まるでタイムスリップしてしまったかのような気持ちにさせる風情ある旅館。
ここで生まれ育ったわけでもない俺まで、特別な場所のように感じた。
たぶん俺が鈴花に心底惚れているから、彼女を形作ったもの全てが愛おしいんだろう。
今までろくに人を愛せずにいた自分が、そんなふうに感じられるようになるなんて思ってもいなかった。
彼女と一緒に暮らすうちにいつの間にか変わっていた自分を自覚する。
そんなことを考えていると、鈴花が姿勢を正してこちらを見た。