俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
「聞かなかったことにできないか」
「幸恵様のご伝言を無視できるわけがありません」
「お前が伝え忘れたことにすればいい」
俺がそう言うと、穂積に容赦なく睨まれる。
仕事中は役員と秘書という関係だけど、もともとは友人だったこともあって、この秘書は俺に容赦がない。
「わかった。この会話をそのまま幸恵様に伝えておくけど、いいな?」
すっかり仕事モードから友人モードに切り替わり乱暴な口調でそう言った穂積に、俺はうなだれながら「わかったよ」と悪あがきをあきらめる。
「それにしても実家に呼び出しなんて、いったいなんの用だろう」
「三十歳にもなって特定の相手も作らず仕事ばかりしてる孤独な孫を、心配してるんじゃないか?」
「孤独って勝手に決めつけるな。だいたいお前だって独身なんだから、人のことを言えないだろ」
険しい顔で反論する俺に、穂積はあきれたように肩を上げる。
「確かに俺も独身だけど、和樹と違って女性不信じゃないからね」
「俺は女性不信なわけじゃない。仕事の時間を割いてまで付き合いたいと思う女がいないだけだ」
「心から誰かを愛せないんだから、同じだろ」
そう言われ、むっとした俺が黙り込むと、穂積は仕事モードの口調に戻り話題を切り上げる。
「では、用件はそれだけですので失礼いたします」
涼しい顔で頭をさげた穂積が役員室を出ていく。閉じられた扉をながめながら、俺はひとりため息をついた。