俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
帯を素早くお太鼓結びにしてあげると、母は私を振り返って「ありがとう」と微笑んだ。
「さ、光雄さん行きましょう」
そして父に目配せすると、背筋を伸ばし客室のある本館へと向かう。
これからチェックアウトの時間になる。
旅館の主人と女将としてお客様を見送るのだ。
そんなふたりの背中を見ながら、私は「はぁー」と大きなため息をついた。
ずっと清く正しい学生時代を送ってきた私は、大学卒業後は就職するつもりだった。
それなのに、超絶過保護な父にあの調子で反対されてしまったのだ。
ちょうど私の就職活動の時期に、旅館を取り仕切っていた大女将である祖母が亡くなってしまった。
祖父は私が幼いころに亡くなっていて、旅館の経営のすべてが両親の双肩にかかることになった。
祖母をなくした悲しみと旅館を任された重圧で大変な両親を少しでも元気づけられればと、私は就職を一年遅らせ、旅館の手伝いをすることにした。